以下, 特徴的なものをいくつか. 書き出してみると思いっきり方言ですね. 本当はイントネーションでもどことなく標準語と違うものがいくつかあるんですが, そちらは文章では表現しづらいので割愛. どこの方言も同じですが, 特徴的なのは話し言葉で, 文章に書くときは 違う表現をします. 例えば「書いておく」と言う場合, 話し言葉では「てお」の部分が詰まって「書いとく」と言いますが, 作文などに書く場合は誰でも「書いておく」と書きます. ここではできるだけ喋っている通りに書き留めたいと思います.
注意しないといけないのは, ここに書いたのは豊橋市街弁だということ. 同じ三河でも岡崎, 安城などの西三河と豊橋, 蒲郡などの東三河で微妙に 言葉が違います. 豊橋の中でも市街部と農村部で違います. きっと年代によっても変化しているでしょう. どれが一般的でどれが限定的なのかはわかりません. 他の場所に行くと微妙に違った言い方をしていたりするんで, これが正解と言うものは無いと思ってください.
まずは御三家『じゃん, だら, りん』です. この言葉を最初に聞いたときに, ちょうど所ジョージの『夢見るジョンジョロリン』と言う曲が流行ってました. (いや, 流行ってはいません.) ジョンジョロリン と じゃんだらりん. 語呂が 似ていて, 替え歌のように歌ってました.
語尾につく言葉で, 断定/強調/同意/疑問/確認/命令/要請など 様々なニュアンスで使われます. 特に『だらー』は頭につく言葉によって『らー』に変化することもあり 使いこなしが難しいです. 「いいらー」は「いいだらー」と言っても通じますが 「あんただらー」は「あんたらー」とは言いません.
愛知県の東の端に豊橋があり, 隣の静岡県には湖西, 浜松があります. 高校時代に湖西から通学している友人がいて, 「湖西は静岡だけど, 言葉は完全に豊橋(愛知)」と言われました. このときの彼の判断基準が『じゃん, だら, りん』でした. 大学時代には浜松の友人から 「人口や文化では豊橋に勝ったけど, 言葉では負けた」と言われるほど 浸透力の強い言葉で, その頃には大井川の西, 遠江の国は征服したようです. あれから 40 年. もう駿河を征服したでしょうか.
ちなみに豊橋から北へ向かう方向には飯田線と言う線路が走っており, 山を越えて長野県に繋がっています. 高校時代にその飯田線に乗ったときに 周りの人の会話が長野に近づくに従って「だら」から「づら(ずら?)」に 変わっていきました. 北への侵略は難しいかも.
西は強力な尾張弁(名古屋弁)が存在します. 豊橋は文化的には名古屋の属国です. 西方向への進軍も難しいかもしれません. あ, 当時, 豊橋の人間から見るとラジオなどで聞く名古屋の言葉は 関西弁っぽく聞こえていました. (宮地由紀男とか懐かしいな...) でも, 通常の番組の中のアナウンサーなどは標準語を喋っていたので, 関西弁のように大げさに話しているんだろうと思ってました. 大学時代に日常会話でもローカル DJ の様な言葉が使われているのを目にして 感激しました. (自分たちの三河弁の使い方を考えれば当たり前なんですが...)
あ, 当時名古屋をキー局とした東海地方のテレビ番組編成は, 土曜の昼に 吉本新喜劇, 松竹新喜劇を続けて放映していたり, 2 チーム対抗のゲーム形式で 芸人を競わせるお笑い番組(『モーレツ!! しごき教室』とか懐かしいな)が いくつも放映されていたりして, 大阪の番組が非常に多かったんです. なので方言を代表する関西弁にも自然に馴染んでいて, 自分たち以外の方言にも それほど抵抗がありませんでした.
どこでも使える強調表現『ド』. 漢字にすれば『弩』でしょうか?
一般的な(?) ド馬鹿, ドブス, ド不味い などネガティブな表現だけでありません. ポジティブな単語にもよく使います. 「かっこいい」→「ドがっこいい」, 「かわいい」→「ドがわいい」など『ド』の強さに引きずられて 語頭が濁音になることも多々あります. (このためか褒めてるのに馬鹿にされていると受け取られることも...)
色々と方言の例を書いていて気づいた. 「(こっちへ)おいで」とか「遊んでおいで」など, 移動(来る)を意味する「おいで」と それを動詞に合わせた「XX しておいで」. 三河弁ではこれに「ん」を付けた『おいでん』が良くでてきます.
言葉で書くと 2 番目の文なんてすごく変に感じますが, 口語をそのまま書き取ると
こんなになります.
「とっておく」→「とっとく」
「とっておいてあげる」→「とっとく」+「(して)あげる」
→「とっといたげる」
など口語による短縮形はよくあるものだと思います.
もちろん三河人も文章で書くときは「とっといたげる」と書かずに
「とっておいてあげる」と書きます.
文語と口語で違うのは全国どこでも同じです.
「行って」+「おいでん」→「行っといでん」
3 番目の例の様に「おいでん」は他の動詞とくっつけてよく登場します. 「話といでん」「書いといでん」「聞いといでん」... 行動/動作を示す 動詞となら何にでも付きそうな気がします.
実行中を表す「~している」. 三河弁では「~しとる」と短縮します. (うーん. 現代的!) 否定の「~していない」は「しとらん」です. まあこのあたり, きっとどの地方でも丁寧に「している」なんて言わずに 短縮しているところが多いのでは.
3 つ目の「遊んどらん」は「遊んでいる」の否定の意味で, 「遊ぶ」+「(し)とらん」が合成され「遊んどらん」となります. 音便で言えば「遊ぶとらん」の撥音便(ン音便)でしょうか. 三河弁に適当な促音便や撥音便はつきものですが初心者には難しいかも.
こちらも例からピックアップ. 三河弁の可能/不可能の表現(= 助動詞「れる」「られる」を使った表現)は メチャクチャです. 「書けない」際には「書けん」と言うのが普通ですが, 「れ」を入れて「書けれん」と言ったりもします.
「書けれる」「書けれん」などはもちろん「書ける」「書けん」も使うし通じるが, できるできないを話しているときは, つい「れ」を入れて言いがち.
「着る(カ行上一段)」は「着れる」「着れん」
「着られる」「着られん」どっちもあり.
「寝る(ナ行下一段)」もどっちもあり. これらは「ら」抜き言葉かな.
「書く(カ行五段)」と同様に
「行く(カ行五段)」は「行ける」「行けん」
「行けれる」「行けれん」どっちもありだが「ら」抜き言葉ではない.
「走る(ラ行五段)」の場合は「走れる」「走れん」のみで
「走られる」「走られん」はほぼ無し.
「話す(サ行五段)」の場合も「話せる」「話せん」のみ.
いや?「話せれる」はあまり無くても「話せれん」はありかな.
「遊ぶ(バ行五段)」も無し側.
でも「遊べれる」は微妙でも「遊べれん」はありかな.
「やる(ラ行五段)」(Do の意味)は「やれる」「やれん」はアリで,
「やられる」「やられん」は無し.
などなど法則も分かりません.
方言に近年の「ら」抜き言葉も加わってメチャクチャ.
何が正しいのかも分からなくなったりします.
ときどき明らかに普通には通じないだろうという単語も出てきます.
「遊びに行くまい」などは「遊びに行かまい」「遊びに行こまい」など どれでも通じるが, 私の周りでは一番は「く」次に「こ」かな. 「抱く」の変化形「だかえる(抱かえる)」なんて標準語だと思っていました. もし試験で「抱え込む」に読み仮名をつける場合, 三河では「だかえこむ」と 書くのが多数派だと思います. 標準語の「かかえこむ」の方が少数派.
by うらのふ